• Shiori W

<JP>福岡の弦楽器工房、手作りへのこだわりと演奏者への想い。日本の職人のリアルボイス


中嶋弦楽器工房はバイオリンからコントラバス、バロック楽器までオーナーの中嶋卓氏が一人で製作、修理を請けている。現在は飯塚市へ移転。工房も第一工房と第二工房と増床。

製作と合わせて、中嶋氏は、若手演奏家を支援するため、独自に演奏会を企画するなど精力的に活動している。


― 中嶋弦楽器工房は創業して何年目でしょうか?事業の地として、飯塚市を選ばれた理由はありますか?

平成28年創業、5年目、移転は3年前だね。飯塚と言うより「筑豊エリア」が私の地元だったと言うのもある。家賃の負担も減ったし、スペースもより大きく使えるようになった。それに店舗が都市部になくとも楽器の販売ができると分かった。

最近は試奏しなくても買ってしまう。弦楽器をネットで買う時代。

7〜8年くらい前ごろより、ヤフオクで中国製の2〜3万円くらいの値段の楽器を写真の撮り方を良くしてオールド(*)と称して10万円、20万円で販売している業者を見かけた。それを購入する人たちも見かけ、ネットでこういう買い方するんだなと気づいた。

それならば、ネットで購入できる手作りの楽器を提供したほうがいい。そうすると、別に都心でなくとも仕事ができる。

*補足

オールドとは、オールド楽器として呼ばれる1800年頃以前に作られた手作りの弦楽器の呼び名。当時は、国や職人によってそれぞれ作り方が違い、音の鳴りに個性がある。なかでもオールド・イタリアン (Old Italian)と呼ばれるバイオリン発祥の地、イタリアの小都市クレモナでは、ストラディバリといった名工が活躍した時代。彼らによって製作された楽器は、「シルバートーン」と称され、その美しい音色を持ち、豊かな音量と多彩な表現力を併せ持つコンサート・バイオリンと評価されている。美術品としての評価も高く大変高価なのが特徴。

― バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの他にバロック式の楽器を注文可能とありますが、全てお一人で作られているのでしょうか?

そう。うちの良いところは、楽器を試奏したいと言われたら試作品を送って、どんな音がでるのか確かめてもらって製作の方向性を決めることができる。顧客の意見を聞いてニスを塗り始めることも可能。今まで、ネットで購入した人から、キャンセルは出ていない。

― 注文を受けてどのくらいの時間をかけて完成までたどり着くのでしょうか?

白木の状態で20日間、ニスに20日から30日、うちはそれを25万〜50万円内でお客様の予算に合わせて作る。

30万円しか予算がないお客様に、60万円の物をお勧めすることはしない。

世界から見れば、こう言った販売方法はそんなに変なことではない。

それこそ個人メーカーで30万円でフルハンドメイドを売ることは欧州ではあることだけど、それを日本で購入するとなると、業者を通すので2〜3倍になって手作り最低価格60万円〜という仕組みになる。日本の職人がそこに相場を合わせて仕立てちゃって、日本の手作り楽器は最低60万円ですっとなっている。

それっておかしいよね?ちょっとそれに日本も寄せたいと思う。

― バイオリンで言えば、イタリアのクレモナが有名ですが、メイドインジャパンの弦楽器の特徴はなんでしょうか?

うーん、メイドインジャパンと言ってもその強みがイマイチわからない。人によって、もしくは世間一般に言われる「メイドインジャパン」の強みって「綺麗さ・作業の精度」くらいだよね。それって楽器で言えば、自分の所有物であって、純然に道具として使えたらいいというお客様もいるでしょう?それは車と同じように、実用車として100万円の軽自動車でいいというお客様もいれば、ステータスとして高級車がいいという人もいる。


私が作る楽器は、メイドインジャパンのブランドというより、中嶋弦楽器工房の楽器として「普及品」を作っていきたい。


もちろん「100万円出すから、もっといいものを作って」と注文を受ければ、よりいいものを作る。

しかし、基本的にはお客様の手の届く予算の中で一番いいものを作りたい。

日本の楽器は高すぎる。若手の製作者のために、いい選択肢を取りたい。

誰かがやらないと、後が続かない。

私がこの値段でこの世に出していれば、たとえば5年後10年後、若い職人が出てきた時に、自分の作った楽器をお客さんが買ってくれないという場合、「あ、25万円ってこの値段つけていいんだ。」と自信を持って思える。どの業界でもあると思うが、基本的には価格破壊を起こすだけの値下げはタブーだ。だけど、そこにやっていける計算と理論性があればやっていいと思う。私にとって、日本の楽器は高すぎる。

ただ単に、安い白木の楽器にニスを塗って、はい20万円ですという行為は、私は許さないけど全部自分で行った作業費を入れて20万円〜30万円は、いいと思う。

― 素材はルーマニア産にこだわられているようですが、材料を選ぶときに気をつけているところはなんでしょうか?

ルーマニア産の木材は、比較的仕入れ値も安く、素材がいい。

欧州の中でもドイツは音が硬くなる。イタリアはブランドになってしまっている。

ルーマニア材は短所を含めても安さとのバランスが取れていて納得がいく。

木材は直接輸入して、届いたものを一つ一つ叩いて音を確認する。元の値段に関係なく自分の基準でランクをこちらで振り分けることで価格と質のバランスを取っていく。

― 職人として、いいものを作りたいと目指される方が多い中、

  手に届く価格に抑えた作品を目指すきっかけはありましたか?

自分のプレイヤーとしての経験から。演奏者はみんな、いい楽器が欲しい。しかし結局、値段が高くて下のグレードを買うよね。そういう下のグレードを選ぶ人に、よりいい楽器を渡せないか?と考えた。そこで手の届く範囲で買えるもので、尚且つ、後から買い換えなくていい楽器を作りたいというのがスタート。


今の楽器のビジネスモデルって、とりあえず安い普及品の量産品をまず買って、後々マスターモデルの100万円、200万円のものを買いましょうねって売り方だよね。安い楽器を最初に手に入れさせる。それってそんなにいいことなのかな?って。

いい楽器っていうのは、弦楽器で言えば値段でなくて手作りかどうかなんだよね。


手作りで、ちゃんと考えられて作られた楽器なら安かろうと長くずっと使える。

機械的に作れない頃の時代は、それなりに長年使える楽器ばっかりだった。今は、大量に安い機械的な量産楽器を作りすぎていて、消耗品扱いしている。

そういう楽器っていくら使っても、100年経ったところで、いい楽器にはならない。50年後、古くても安くていい楽器を使いたいという時に、見つからなくなる。

今の弦楽器業界が抱える色んな課題を複合的に考えてこの値段にしている。

安いモデルの量産品で作られた楽器は、音の鳴り方も違う。

買い換えたところで、またその楽器に慣れなければいけない、弾き方を一から覚え直さなければいけない。安いモデルの量産品から買い換えることはプレイヤーにとっては、技術の妨げにしかならない。

― 今後の目標はありますか?

こうやって、やっていくという自分の道筋は既に決まっていて、今はそれをやっている途中。目標と言われると難しい。こうやりたいという目標というより、やるべきことをやる。

楽器の製作と合わせて、若手の演奏家の演奏の機会をつくることもやっている。仕事ではなくやるべきこととして、やっている。

― 若手演奏家への支援というのは?

例えば活動して10年経っている演奏家は、もう地盤があるから支援しなくていい音楽業界で支援といえばよくみんなやるのが若い人、青少年を演奏会に招待したりとか、子供に対してレッスンをしたりとか、そういうのが多い。


それに対して私は疑問視していて、そこを引っ張り上げました、はいあとは自分で頑張ってくださいって、それってすごく無責任で、業界に引っ張り上げといてダメだったら後はまた自分で頑張ってねというのは、あまりよろしくないやり方だと私は思っている。


一番、特に芸術家にとって支援がいるのが活動を始めたての若い時。


まず第一に、お金、そして演奏する機会。お金がなければ精神的に疲弊していくからね、多少食えていけたとしても、明日仕事が入るのかというようになると怖い。

その次に機会。機会っていうのは、ある程度こなれてきた演奏家ならオケの仕事が入ったり、仲間内でアンサンブルを企画できたりする。若いうちって、それが難しい。


技術を研鑽するレッスンはあるけれど、野球と同じで一軍と二軍があるように常に実戦経験を与えるっていうことが大事。

そういう機会をどんどん与えていかなければいけない。そういうことを考えていくと、私の演奏家への支援はこういうところにしか照準がいかない。

― この先、音楽業界がどうあって欲しいと思いますか?

自身、音楽業界では1人のアマチュアプレイヤーでしかない。

いや、難しい。業界が進むべき道はわからない。ただ、自分がどう関わっていくべきなのかはわかる。

― と言いますと?

私が思うのはコンサートのラインナップのバランスがとにかく悪い。

まず現代音楽をほぼやらない。有名な曲ばかりやる。

マイナーなものをやれとは言っているわけじゃないけれど、色んな曲を取り上げるべきだと思う。

結局、音楽をやる上で、何をしなくちゃいけないと言うと、これは芸術全般でも言えることだけど、前段階として観客を育てないといけない。

これは音楽もそうであり、絵もそうだ。今の人たちは、若い人年寄り関係なく自分で考えることを放棄している。それはすぐに情報が目に飛び込んでくるから。メディア系でやっているに言うことじゃないと思うけど(笑)。

正しい意見をすぐに求めてしまって、それらしいものがあればすぐに迎合してしまう。それは非常に良くなくて、特に芸術に関しては、考えて思想を共有しないとその芸術に触れたとは言えない。だからその観客を育てていくためのプログラムづくりを心がけている。

たとえば、演奏の曲目に統一性を持たせ、絶対知らない曲、まあ現代音楽なんだけど、これを聞かせて、何を受け取るかを、観客に問うたりすべきだと私は思う。

その辺ことを意識してプログラムづくりをしている。この辺りは難しいけどね。

― クラシック音楽は敷居が高いと言われやすいですし、音楽だと食べていけないと言われますよね。

本来、全てのものは敷居が高いもの。知らなければ、その世界には絶対入っていけない。

例えば、文章を読むと言うのは、私たちにとって当たり前だけど文字を知識として入れてなければ、それは絶対踏み込めない領域それと一緒。絵も、絵の知識、その絵の作者のいきた背景やなんでこの絵を書いたか知識を知らなければ、その絵の真価は見えない。


もちろん表面上、絵を見て感じる感情は間違いじゃなく、音楽も同じだが、そこで止まって欲しくない。文章であれば言語、絵であれば作者の背景、考え。音楽に関しては複雑で単純に作者だけでなく、曲を作るに当たっての物語性が関わってくることがある。方や、モーツァルトの楽曲なんて、それまでの前の時代、たとえばハイドンの曲は幾何学的な組み合わせで和性の進行上、それはこうなる、こうなると組み合わせだったものが、モーツァルトはオペラと言われ、音楽の中に物語があると言われている。そう言うものを、認識しながら聞くのとただ単に聞いて満足することは違う。演奏会のプログラムをつくるときは、お客さんが疑問に思う曲を一曲絶対入れている。現代音楽はまさに打ってつけ。

できればその疑問の解決まで、演奏会中に促したい。


今から日本で自分の事業をやりたいと言う方にアドバイスを

事業の種類にもよるけれど、日本でよっぽどのことをしなければ大きく失敗することはない。立ち直れなくなるほど、失敗して死ぬしかないと言うこともない、怖がらずにやるべき。そして事業は正直にやるべき。日本人は優しいから、それを騙そうとするのではなく、真摯にやることだ。

― 「正直」ってなんでしょうか?

もちろん、漢字の通り正しいことをすればいいと言うことではない。正直に商売しろと言うのは、日本的な言葉だもんね。裏返しで言えば「悪どいことをするなよ」と言うことだね。例えばお客さん騙して、高く楽器を売りつけるのは悪どいことだね。

お客さんが、不利益を被るようなことをしない。そう言うことだね。

食うに困ると、そう言う考えがチラッとでてくる、人間だからね。

自分が困った時に、お客さんが不利益を被るようなお金の稼ぎ方はいくらでもある。でもそれはやっちゃいけない。それは商売をやる上で絶対のことだと思う。それが私の思う「正直にやれ」と言うことだと思う。

― 日本のクラシック音楽業界でチャレンジしたい人にアドバイスはありますか?

まず、若い人でたとえば現地の大学を卒業して、一旗あげてやろうと思うならやめたほうがいいと思う。それは、よほど伝手があって、もともと知り合いが最初から使ってやろうとなっていない限りやめたほうがいい。オケのオーディションに受かってるといった場合ならいいと思う。

日本のクラシック音楽業界はすごく学歴社会で、純粋な腕があるのは前提で、そこにプラスで伝手がいる、若い人はやめたほうがいい。ヨーロッパのたとえばオケに入ってある程度肩書きや経験を持ってその経験を生かしに日本に来るのはありだと思う。経験を積んでだったら道は多少あると思うけど、何かしら関わりがある状態で来たほうがいい。日本のクラシック業界では伝手がないと厳しい。

■職人プロフィール

中嶋卓(Suguru Nakashima)

10代の頃よりチェロの演奏を続ける。東京で製作技術を学んだのち、福岡市博多区にて最初の店舗を持つ。その後、飯塚市へ移転し、バイオリンからコントラバス、バロック楽器まで一人で製作、修理を請けている。工房も第一工房と第二工房と増床。若手演奏家を支援するため、演奏会の企画もしている。

平成28年、中嶋弦楽器工房を創業。

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福岡の商業の中心地「博多駅」から約50分、JR福北ゆたか線「桂川駅」より徒歩20分(車で5分)。

豊かな自然と、田園風景に囲まれた住宅地の中に青い看板が見える。

中嶋氏への注文の依頼は上記リンクよりお願いします。


2020.8月時点の情報です。

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